太極拳は、ほんとうに体にいいのか?

2020.02.19 Wednesday

(右足だけで縦に伸びる力を働かせ、左足は猫足のようにふわっと着地する直前。Photo

by Xie Okajima

 

太極拳というと、一般的には体にいい印象があるのではないでしょうか。

 

以前いらしてくださった方が、「何よりも、いちばん体にいいのが太極拳と聞いた」と言っていたことがあります。

 

わたしの体は10年前にくらべたら、ずっと健康ですし、体はしっかりしていて、筋力もあります。太極拳は、確かに体にいいと実証できます。

 

でもそれは、やり方によります。

 

体にいいと言われる食べ物でも、人によっては合わないこともありますよね。お薬や漢方でも、最初に処方されたものが合わず、変えることもあります。

 

それと、同じです。

 

太極拳が体にいいと言えるのは、正しい方法で、自分に合った方法であれば、という条件がつきます。

 

それでも、「何よりもいちばん」かどうかはわかりません。一般論よりも、本人に合うかどうか、じゃないかしらね。

 

ひとつだけ、気功の先生に、「太極拳は体の75%の筋肉を働かせる。それだけ使うものは、他にはない」と教えていただいたことがあります。何よりもいちばんというのは、ここに関係しているのかもしれませんが、これも、やり方次第ですよね。

 

太極拳は中国武術、つまりカンフー(功夫)のひとつです。功夫は、今では中国武術と同じ意味で使われることが多いですが、もともとは、時間をかけて技を磨いていくというだけの意味です。

 

功夫茶とよぶ中国茶を聞いたことがある方も、いらっしゃるかもしれません。武術の功夫とは全く関係なく、また、特にその名称をつける基準があるわけではなく、生産者が「長年のわたしの経験と技を注ぎ込んで作った、珠玉の品」みたいな意味を込めたいときにつけるそうです。

 

武術としての功夫をするときも、時間をかけて技を磨いていくのですが、そのときには、自分に合った方法で、という点も大切です。

 

よく「太極拳と言えば、ずっと中腰ですよね」と言われることもあります。腰を落とした低い姿勢を保ち続け、それが健康によい、という見方もあります。

 

これは、100%間違っているわけではありませんが、一部だけ取り出している感じで、誤解を生みやすいと思っています。

 

太極拳に、「中腰でする」という定義はありません。「最初から最後まで、頭の高さが同じ」と聞いたこともありますが、それも正解ではありません。

 

いちばん大切なのは、バネのように縦に伸びる力が働き続けていること です。立ち姿勢でも、腰を落とした低い姿勢でも、です。そうでなければ、ひざは守れません。

 

中国でも日本でも、太極拳でひざを悪くしてしまう人が、かなりいると聞きます。実際、「健康になりたくて太極拳をやったら、ひざを壊してしまった」という方も、いらっしゃいます。

 

やり方を間違えると、いっしょうけんめいする人ほど、ケガのリスクが高まります。それは辛いですよね。

 

いっしょうけんめいにやる人が、ちゃんとそれなりの成果を出せるように、正しくその人に合った方法を教えることは、すごく大切なことです。

 

わたしは習い始めて5年目くらいで、大会に出る前のお稽古をしているとき、ひざ、足首、腰を痛めないように、と心配しながらお稽古していたことがあります。でもあるとき、ふと、「これって、ケガの心配をしながらするものかしら?おかしくない?」と、疑問に思ったことがあります。

 

心配しながらやっていた、ということは、当時の練習方法では、なんとなく、ここに負担がかかりそう、と感じていたのだと思います。

 

さらに、続けているうちに、もともと少しあったゆがみが、ひどくなったこともありました。それも、おかしいですよね。

 

そのときやっていたすべてが悪いわけではないのだと思いますが、何か、大事なことが抜けていたのだと思います。

 

わたしの師匠(武当玄武派第十六代伝人 明月師父)は、ひざを守ることにかけては、とても熱心です。そのおかげで、わたしの前半の太極拳人生(今のところの前半ですが)で、疑問に感じていたところ、わからなかったことが、ずいぶんわかるようになりました。

 

さて、上に書いた、「いちばん大切なのは、バネのように縦に伸びる力が働き続けていること」を、もう少し説明してみます。

 

一般的に、ひざには体重がかかると言われています。歩くときには体重の2〜3倍、階段の昇降には5倍以上の負荷がかかる、という話もあります。そのまま中腰にしたら、ますます大変そうですよね。

 

そして、一般的には、体がバネのように縦に伸びる力が働いていません。重力のおかげで、体重が下に落ちて、地面に足がついた状態になりますが、重力に流されすぎて、頭が下向きに落ちていることが、ほとんどです。

 

関節の間はぎゅっと詰まり、年ととるにつれて身長が低く、体が硬くなっていくのは、この流れだと思っています。

 

そういう人たちに、ちょっと腰を落としてもらい、頭の上から押してみると、ずぶずぶと下に落ちていきます。

 

バネのように縦に伸びる力が働き続けている人は、関節の隙間が開いていて、年をとっても身長が縮むことなく、体も硬くなりません。腰を落として頭の上から押してみても、上に向かう力があり、落ちていきません。

 

この場合の中腰は、バネを縦にきゅっと縮めた状態で、ぴゅんっと伸び戻る力を蓄えています。中腰がよい、と推奨されるひとつの理由は、こんな風に強い力を秘めているからだと思います。

 

縦に伸びるバネを効かせるコツは、関節をカクンと曲げないことです。ひざも、股関節も、です。関節は、曲がるようにできていて、曲がることでバネのようなクッションになります。それを、たとえばひざを前に折って曲げてしまうと、その形で固まってしまい、クッションにはなりません。

 

ちょっと想像してみてください。ひざや股関節にバネが入っていて、それがびよーんと伸び縮みしたら、体がふんわり浮くような気がしてきませんか?

 

さらに、背骨すべての関節にバネが入っていて、それがびよーんと伸び縮みしたら、さらに体がふわりと浮いてきませんか?

 

それが、縦に伸びる力です。冒頭の写真のように片足で立っている場合、もう片方の足がどすんと落ちずに、猫が歩くようにふんわり着地するのは、こんな風にふわりと上に浮く力が働いているからです。

 

空間が、浮力のあるお水のような状態に変えている、とも言えます。

 

水の中を歩くと、ひざに負担がかからない、と言いますよね。日常のすべての空間が、そうなったら、ひざをケガするリスクは減りますよね。

 

「太極拳は、最初から最後まで、頭の高さが変わらない」という点も、縦に伸びる力を働かせるという点から見ると、違います。ある動きに関しては、「ここは頭の高さが変わらない」というのはありますが、最初から最後まで通してみると、頭の高さは変わります。むしろ、縦にぐっと伸びる形になるときは、自然と頭が上がります。

 

站椿功で、木を抱えるように腕を上げるタイプの場合、ぐっと腰を落とすやり方もありますが、この縦に伸びる力を働かせないまま腰を落とすと、ひざを痛めるリスクが高くなり、危険です。

 

縦に伸びる力を働かせることができる人であれば、低い姿勢をとっても問題ありませんが、站椿功でそれをする意味は、あまりないと思っています。

 

むしろ、命門(背中側にある、おへその裏のツボ)を後ろに引くことで、腕が前に伸びていくという、横に膨らむ力を得ることが大切です。このとき、高い椅子に座っているような姿勢になり、もも裏のハムストリングスが使われます。ハムストリングスが使われるときは、大腰筋も働きます。ここを鍛えることは、とても大切です。

 

そんなに低い姿勢を取らなくても、長い時間、この姿勢のまま立っていることで、足の力はつきますし、必要なときにはバネを効かせたまま低い姿勢が取れるようになります。

 

ただし、年齢や個体差もありますので、低い姿勢は、無理なくできるなら取ればいいし、そうでなければチャレンジする意味はありません。

 

若くて元気な10代のAさんは、やり方が合っていれば低い姿勢でいいですし、最近お稽古を始めた80代のBさんは、やり方が合っていれば、腰の位置は高いままでいいのです。養生の観点から見たとき、この両者に優劣はありません。

 

本人に合ったやり方を教えるのは、先生の役目ですが、本人の「感覚」も大切です。

 

ある動きをしたときに、ひざに負担がかかるか、楽にできるか、それを感じる力は、本人が育てるしかありません。太極拳のお稽古を通じて育てる大きなものは、この「感覚」です。

 

体のどこかに詰まりがあるか、無駄な緊張があるかを感じられたら、ある動きをしたときに負荷がかかったら「これじゃない」と気づくことができます。

 

先生という役割の人は、外に現れた形から見て直すこともできますが、それだけに頼っていてたら、毎回、直されるのを待たなくてはなりません。

 

低い姿勢で、かっこいいポーズを決めるよりも、この感覚を育てる方が、はるかに大切で役に立ちます。自分の状態を、常に等身大で把握しやすくなるからです。それは日常でも、非常事態でも、いろいろな場面で本人を守り、助けになると、思っています。

 

そういう人は、周りの人を助けることもできるのではないでしょうか。

 

明月師父の師匠である田理陽師父は、「太極拳とは、健康によく、自分を守り、他人を守るもの」とおっしゃっていたことがあります。

 

太極拳は、体にも心にも、いいものです。ただし、正しく、自分に合ったやり方でされたものであれば、です。

 

はじめて5年目くらいのわたしに足りなかったのは、正しく自分に合ったやり方と、それがわかる感覚だったと思います。その体験があるからこそ、今があるのですけれどもね。

 

 

※そんな体の使い方への第一歩は、2月23日(日)14:00-16:30 「ホントにはじめての武当太極拳・気功(池尻大橋)で。詳細とお申込方法はこちら

 

 

「陽だまり」とは

「陽だまり」のイメージは、縁側にのんびり座り、暖かいお日様の光が射しこみ、ぬくぬく、まどろむような時間と空間です。縁側は、なくても生活できますが、あると居心地が良く、今、とても失われている”あそび”や”ゆとり”だと思うのです。モノも置かれておらず、いつもキレイで、りん、とした印象もあります。人が集って、一緒にお茶でも飲んでなにげない話をして、ほっとする場所でもあります。太極拳を通して、陽だまりのような場を創っていきたいと思っています。

 

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いしい まゆみ(道号:静慧)/ みんみん)

太極道家

講座のご案内は、こちらから

 


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