大器晩成
2019.04.12 Friday
本屋さんが好きです。
「これ」と決めた本は、ほとんどネットで買ってしまいますが、ちょっと時間があるとき、よさげな本屋さんを見かけたとき、吸いこまれるように入ります。
ぐるっと回るうちに、面白そうな本が見つかることも。
昔、ときどき行くところに、小さな本屋さんがありました。ぐるっと回ると1〜2分くらいの、ささやかなお店でしたが、行くと必ず面白そうな本に出会えました。ご主人のセンスかしらね。今は行かないところなのですが、大好きな場所でした。
先日、新しい老子の本に出会いました。文庫なのですが、装丁が美しく、手に取ったら手放せなくなってしまいました。
老子の「道徳経」は、81章約5000語という短いものなのですが、短いだけに、そのことばをどう解釈するかは、いろいろです。
個人の生き方、リーダーのあり方、政治の行い方など、同じ章でも、視点が違うといろいろ読めます。太極拳との関連でも、読めます。老子の思想を体現化したものが、太極拳とも言えますしね。
さて、その老子の「道徳経」、実は原本はひとつではありません。
老子という人自体、あまりはっきりわかっているわけではありません。一般的には、司馬遷の「史記」に書かれている人とされており、周王朝の守蔵質の史、つまり国の国会図書室の役人でした。
老子は、周の国が衰えるにおよんで、首都の洛陽を立ち去ります。そのとき、函谷関(かんごくかん)もしくは散関(さんかん)どちらかの関所を通るときに、関守の尹喜(いんき)に留意されます。それを振り切って去ろうとする老子に、尹喜が、せめて何か残してくださいとお願いし、一晩で書いたものが「道徳経」と言われています。
長い間、原文とされてきた「道徳経」は、唐の時代、7世紀に建てられた石碑に掘られていたものです。唐の王室は道教を重要視しており、各地に道観(道教の寺院)を建立し、そこに石碑も作っていたようです。
でも20世紀に入り、遺跡から絹に書かれた2種類の「道徳経」が見つかります。唐の時代の石碑に掘られていたものと、大筋は同じなのですが、ところどころ、表現や文字が違っています。
「大器晩成」は、41章に出てきます。
石碑に書かれているものは、
大方無隅
大器晩成
大音希聲
大象無形
(大きな四角には隅がなく、大きな器は完成するのがおそく、大きな音はほとんど聞こえず、大きな現象には形がない)
大器晩成は、大物は、ゆっくり育つ、というような意味で、不器用だったり、なかなか成果が出ない人に、励みのことばだったりしますよね。
一方、絹に書かれた「帛書(はくしょ)」では、
大方無隅
大器免成
大音希聲
天象無形
(大きな四角には隅がなく、大きな器は完成せず、大きな音はほとんど聞こえず、天の現象には形がない)
と書かれています。
なるほど、よちよちと、ずっと老子を読んできた身としては、大きな器は完成せず、という帛書の解釈は、すごく老子らしいなあと感じます。
もしかしたら、大器晩成と言われる方が嬉しくて、「完成しない」と言われてしまうと、がっかりするかもしれませんよね。
でも、結局同じことだと思うのです。大物は、ゆっくり成長していき、その成長は止まることがないのですから。
その人が大物かどうかを決めるのは、自分ではなく、人ですよね。場合によっては、本人の没後ということも、あります。
人の評価をあてにするのではなく、自分が信じること、やろうと思うことを、諦めずに続けていくだけでいい、という方が、勇気づけられる気がします。
「TAO, THE BOOK OF THE WAY LAO TZU」の訳者、安富歩さんは、ここに素敵な訳をつけてくださっています。
大きな四角、つまり有徳者の広い心は、
どこまでも寛大であって、誠に届くことがなく、
大きな器、つまりすぐれた才能は、
どこまでも成長し続けて完成することがない。
大きな音は、もはや聞こえず、
天の姿には、形などない。
道士(道教の修行者)たちは、「道徳経」を、ずっと読み続けると言います。その理由は、「読み続ければいつかはわかるから」と聞いたことがあります。
ここに書かれている大器免成にも、つながりますよね。
読み続ければいつかはわかる、という人たちが、本当に「わかった」と言う日はないのかもしれませんが、それはちっとも不幸なことではないと思います。
今は、こう思うけれど、まだ違う解釈があるかもしれない、と、余白を残しておくことは、成長の余白でもありますし、他者や他の意見を聞く余裕にもなりますし、心のゆとりにもなります。そして、それ自体が楽しさをもたらしてくれると思っています。
参考:「TAO, THE BOOK OF THE WAY LAO TZU」安富歩 編訳 株式会社ディスカバー・トゥエンティワン
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