5つの動物の気功(五形功)

2019.11.27 Wednesday

 

憧れの套路というものが、いくつかあります。そのうちのひとつが、五形功です。

武当山に伝わっている功夫のひとつで、5つの動物の形の気功です。

 

はじめて触れたのは2010年のことで、亀を習いました。水と戯れて泳ぐ動きが心地よく、心も穏やかになる気がして、「これ、いいな」と感じてしまったのです。

 

「次は、鶴になって羽ばたくのだ」と思ったものの、なかなか機会は訪れませんでした。

 

短い套路ですので、「短い時間でも習えるかな」と甘く考えたこともあったのですが、他の人が習っている横でちょっとかじるくらいでは、やはり全然、ダメでした。

 

しっかり反省して、今年の春、じっくりとこれだけ習うと決めて、武当山に行きました。

 

5つの動物は、鶴、亀、虎、蛇、龍、です。下記のように、五行にも対応しています。

 

五行: 木 ・ 火 ・ 土 ・ 金 ・ 水

動物: 龍 ・ 鶴 ・ 虎 ・ 蛇 ・ 亀

 

体の機能をととのえ、気血を満ち溢れさせ、心を落ち着かせ、体力と気力を充実させる、と言われています。

 

それぞれ短くシンプルですが、じっくりと習いがいがあるものです。

 

最初に習ったのは、鶴です。動きを細かく分解すると、けっこう行程が多いのです(行程という表現が、適切なのかどうかは疑問ですが)。大事なポイントがいくつもある、とも言えます。

 

慣れないうちは、うっかり、そのポイントをひとつふたつ飛ばしそうになります。「うわー、難しい...」と言うと、先生は「そうそう、これは簡単そうに見えるけれど、そうじゃないのだよ」と笑っていました。

 

中国の伝統文化では、鶴は凡俗を超え、上品で穏やか、清らかな生きものとされています。五行では火で、五臓では心にあたります。鶴の全身がグーッと伸びるように、頭から足先まで伸びたり、優雅に羽ばたいたり、片足で立ったりと、展開は、なかなかにドラマチックです。

 

 

続いて、亀を習いました。武当功夫には複数の派があり、2010年に習ったときは三豊派、今は玄武派ですので、動きも違います。もちろん、一から習います。

 

亀は”先に行き先に知る”長老のような存在で、長寿で知恵があり、やすらかで落ち着いています。映画の『カンフーパンダ』でも、パンダのポーの師匠の師匠として、亀のウーグウェイ導師が登場しますよね。あんなイメージです。(ちなみにウーグウェイという名前は、亀を広東語で発音したもの(乌龟/Wūguī)です。)五行では水にあたり、腎を強化してくれます。

 

亀が甲羅から頭をぐーっと出して伸びるように、頭をぐーっと伸ばすところがあったり、腕をグルンと落とす動作は肩甲骨がほぐれそうです。丹(道教の仙人が作ったと言われる不老不死の薬。妙薬)を吐くなど、面白い場面もありますが、一番好きなのは、やはり水と戯れる動きです。スイスイと、なんとも気持ちよいのです。

 

 

続いて虎です。虎は勇猛で、思いやりや慈しみの象徴でもあります。五行では土にあたり、脾胃(胃)を強くし、筋骨を強くすると言われています。

 

命門(背中側にある、おへその裏側のツボ)をぐるんと動かして動きを作ったり、獲物に飛びかかる様子は形意拳に似ていたり、勇ましい様子ですが、動きはもちろん、ゆっくりです。ちょっと上品な虎になった気分です。

 

 

そして蛇です。中国伝統文化では、蛇と亀は一体となり北の神様(玄武)とされています。五行では金にあたり、対応する五臓は肺です。

 

天地をぐるぐると回して腕をしっかり伸ばす動きがあったり、蛇が柳にからみつくように動き、しゅるしゅるっと滑らかに伸びながら、その身をひるがえすように動きます。蛇のように、すべてが流れるように進むと、とても気持ちよいです。

 

 

最後は龍です。伝説上の、不思議な動物ですよね。天に通じる神聖を持つ吉祥の象徴です。五行では木にあたり、肝を緩め、胆を順調にしてくれると言われています。

 

足は、八を描くようにクルクルと周りながら、体をくねらせて動きます。ちょっと動きが複雑で、こまぎれになりながらドタドタと練習している様子を見た先生が、笑いながら「龍は上に登る生きものだからね」と言って、お手本を見せてくださいました。大きな体が、軽く、早く、美しく翻るように動く様は、まさに昇り龍です。その場にいた全員で「ほーっ...」と見とれてしまいました。

 

ちょっと、やってみたくなってきませんか?

 

こちらは今、木曜日の夜の「体と心のデトックス:基本功(気功・瞑想・站椿功)」で、順番にお稽古しています。1つを、2〜3か月かけてゆっくり取り組んでおり、12月あたりからは虎に入る予定です。途中からでも大丈夫ですので、ご興味のある方は、ぜひどうぞ。詳しい予定やお申込み方法は、こちらをご覧ください。

 

 

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☀「陽だまり」とは

「陽だまり」のイメージは、縁側にのんびり座り、暖かいお日様の光が射しこみ、ぬくぬく、まどろむような時間と空間です。縁側は、なくても生活できますが、あると居心地が良く、今、とても失われている”あそび”や”ゆとり”だと思うのです。モノも置かれておらず、いつもキレイで、りん、とした印象もあります。太極拳を通して、陽だまりのような場を創っていきたいと思っています。

 

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空間で、ふわりと浮くように、立って動く

2019.11.22 Friday

 

太極拳をしていて、いいな、と思うことはいろいろですが、とりわけ好きなのは、ふわりと浮く感じです。

 

水の中で歩くとき、動きはスローモーションっぽくなりますよね。踏み出した足も、がつがつ底に当たるのではなく、ふんわり浮きながら移動していきます。

 

空間でも、体と意識の使い方次第で、ふんわりと浮くような感覚を味わえます。

 

膝も痛めません。膝を痛めてしまった人も、状況によりますが、リハビリにもなるでしょうし、また痛めないための、新しい体の使い方も身につけられます。

 

体にもよく、健康促進にもなりますが、それよりも、とにかく気持ちよいのです。

 

これはどこから来ているかというと、”縦に伸びる力”です。びよーんと縦に伸びるバネのようなものです。バネをきゅっと縮めると、さらにびよーーーんと伸びる力が増しますよね。太極拳で腰を落とすというのは、こんな感じです。つまり、びゅんっと伸びる強い力を蓄えています。

 

”立つ”ことは、重力に対して抗重力、上に向かう力が働いています。ただ、普通によくある立ち方では、重力を上手く利用できていない感じで、歳を重ねるにつれて、どんどん背骨や関節の隙間が狭くなり、背も縮み、体も硬くなっていきます。この状態で「腰を落として」と言うと、さらに下に沈んでしまいますし、体重は膝にかかりがちになります。頭の上からちょっと押すと、腰を落としたときに、ずるずる沈む感じがわかります。

 

バネが効いている状態は、腰を落としたとき、頭の上から押しても、ずるずる沈んでいく感じがしません。もちろん背は低くなりますが、上に向かう力が働き続けます。

 

見た目にはわかりにくいのですが、誰かに頭の上から手で押してもらうと、2つの違いは明らかです。

 

バネが効いている(縦に伸びる力が働いている)と、背骨などの関節の隙間も広がり、体の中に空間が生まれます。縮んで硬くなることが、老化のひとつの現れだとすると、毎日、関節の隙間を空け続けていたら、老化スピードも遅くなりますよね。「太極拳をする人は、20年たっても同じ体」と言われるのは、こんなところからも来ていると思います。

 

縦に伸びるとは、「足で地面を押して、頭が天に向かって伸びる」ことです。そのとき、足の裏から頭のてっぺんまで、力がしゅっと通るように、無駄な緊張がないことが大切です。

 

主なポイントは、膝、股関節、腰(ウェストライン)、首が緊張していないことです。

 

たとえば、”反り腰”と言われるような状態だと、足裏で地面を押すことでできる上に向かう力が、腰の緊張で行き止まりになってしまいます。こうなると、体全体ではなく、部分で動かしがちになります。協調性はありませんし、力も必要ですし、非効率ですよね。

 

こんな状態では、めぐりも悪くなります。

 

「足で地面を押して、頭が天に向かって伸びる」感じと、それを実現させてくれる膝、股関節、腰、首の緊張がない感じは、コツにそって、あれこれ自分で試して、時間をかけて経験を積むことで、育ってくると思います。

 

コツを教わらなくても、自分で発見していけることもあるかもしれませんが、それよりも、先人の知恵に頼るほうがよいです。頼れるものは、頼りましょう。その先は、誰かに代わりにやってもらえることはなく、自分で経験して感覚を育てていかないといけませんしね。

 

「足で地面を押して、頭が天に向かう」というと、イメージとしてはわかる気がするかもしれませんが、実際にやってみると、なかなかぴんと来ない人も多いようです。

 

原因は人それぞれですが、多くの場合、体重を乗せることと、足裏で地面を押すことの区別がついていないことです。

 

「地面を押して」というと、ぐーっと体重をかけていく方も多く見られます。この場合、頭は上に伸びず、上から押すと下に下がります。また見た目にも、骨盤のあたりから下に落ちている感じです。横から押すと、そこそこ重さはあって動きにくいのですが、例えるなら、岩のような感じです。強い力で押したら、重いスーツケースが横にずれるみたいになるか、岩が砕けてしまうようになるか、どちらかになります。

 

こういうとき、首から修正していくと、上手くいくことがあります。あごを引き気味にして、首の後ろを伸ばします。あごを引くときは、引いて固定させるのではなく、ずっと引き続けるイメージです。首の後ろも、ぴんっと伸ばすのではなく、じゃばらが自然に開いていくような感じです。

 

多くの人の首は、本来の長さよりも短いようです。後ろから両手で耳の下あたりを引き上げると、にゅーっと長くなる人がほとんどです。

 

緩んだまま首が伸びると、背中の上の方も、連動して伸びてきます。首が伸びて上に向かう力ができると、足で地面を押す力も生まれやすくなります。バランスですね。

 

首が伸びるといいことが、もうひとつあります。肩が上がりにくくなります。

 

人の体は、よくも悪くもバランスを取っていて、緊張は緊張とバランスします。首が短くなっていると、肩も上がり気味になります。

 

首が緩やかに伸びている状態で、肩を上げようとしても、難しいです。緩んでいるもの同士でバランスをとっているのですね。

 

他にも、膝、股関節、腰の状態は、縦に伸びる力をしゅっと通すために、大切なポイントになります。このあたりをちょっとずつ修正していくだけで、驚くほど楽に立てるようになりますし、その時点で作っていた緊張ならば、その場でゆるっと緩むこともあります。

 

人は立って生きる動物ですから、楽に立てたら、毎日が、いろいろと変ってくるのではないか、と思っています。身体的にも、精神的にも、です。

 

楽に立てたら、毎日が楽になると思っています。

 

 

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「安定」の奥に隠されているひみつ

2019.11.14 Thursday

 

「安定」とは、どんなイメージでしょうか?

 

辞書を見ると、「物事が落ち着いていて、激しい変動のないこと」(大辞泉より)とあります。

 

「心が安定している」とか、「物価が安定している」とか、落ち着いて穏やかな感じですよね。

 

「激しい変動がないこと」とあるとおり、動きが少ない印象もあります。でも、そうなのでしょうか?

 

ふと、そんなことを思い、老子と太極拳から、安定の意味を考えてみました。

 

老子「道徳経」の第42章の書き出しは、次のとおりです。

 

「道生一、一生二、二生三、三生万物。万物負陰而抱陽、沖気以為和。」

 

(道が一(一気)を生じ、一から二つのもの(陰陽の二気)が生まれ、二つのものから三つのもの(陰陽二気と中和の気)が生まれ、三つのものから万物が生まれた。万物は陰の気を背負い、陽の気を抱いて、中和の気によって調和を保っている。)

 

道から万物が生成される過程を表しています。ここでは、「道 → 一 → 二 → 三 → 万物」となっていますが、「道徳経」の他の部分では、道=一とされてるところもあり、道と一は、同じと考えてよいようです。

 

「道徳経」には、「太極」という言葉は出てきません。太極ということばが最初に現れたのは、これより前、夏(紀元前2070−前1600)の時代の「易経」です。そこにある「易に太極あり。これ両儀(陰陽)を生ず」と合わせて考えると、「道 = 一 = 太極」と理解することができます。

 

太極とは、すべてのひとつの源であり、陰陽の質を含みつつ、それが分かれていない状態です。わたしのイメージでは、この世で明確に目に見えるものではありません。そこから天地に代表される陰陽が生まれ(ここからは目に見えます)、天地の気が相互に交流して活動が起こります。

 

陰陽の気が相互に交流して活動が起きる、と言われてもピンと来ないかもしれませんが、例として呼吸をみてみましょう。

 

吸う(陰)と吐く(陽)の繰り返しは、陰陽の相互交流で、そこから活動(生きること)が生まれます。吸うと吐くは、自然であれば偏ることなく、調和が取れています。活動は続きながら、自然に調和が保たれます。

 

ここで大切なのは、活動が起きること、つまり常に変化し続けていることです。吸う、吐く、を固定してしまうと、呼吸になりませんよね。

 

体でも、”めぐりがいい”とか”新陳代謝がさかん”のように活動している方が健康的なイメージですよね。逆に、”代謝が悪い”とか、”めぐりが悪い”は、滞っていたり、止まっていて、不健康な印象です。

 

生きるとは、常に変化していることです。

 

バランスを求めるとき、動かないもののバランスを取るなら1回すれば済みますが、動き続ける場合、常にそのバランスを探り続ける必要があります。

 

つまり安定とは、固定するものではなく、常に変化する中で探っていくことになります。

 

安定に対する認識が、ちょっと変わってきませんか?

 

熟練した人の太極拳は、安定しています。見る方も心地よく、安心して見ていられます。

 

でもこの安定は、動き続ける中で常にその瞬間のバランス(調和)を図る結果、生まれる安定なのだと感じています。

 

ではバランスは、どうやって図るのでしょうか?

 

太極拳の動きには、陰陽があります。シーソーは、片方を下げたら(陰)、自然にもう片方が上がりますよね(陽)。

 

これはてこの原理でもあり、このおかげで、少ない労力で大きな力を出すことができます。

 

陰陽の組み合わせは、右手と左手とか、両腕と体とか、いろいろです。さらに、陰が極まったら陽になり、陽が極まったら陰になるように、それまで左手が陰で右手が陽だったら、次は左手が陽で右手が陰になるように、くるくると転換していきます。

 

これが、変化しながらバランスを図る、というプロセスです。

 

その調和のバランスは繊細で、簡単に崩れます。その繊細さを、どれだけ瞬時に捉えて反応できるか、その感覚を育てるのが、お稽古です。

 

初心者と長年の経験者とのひとつの大きな違いは、この感覚の違いに現れると感じます。

 

例えるなら、初心者が5秒ごとに捉えて反応するとしたら、熟練者は1秒ごとだったり、0.1秒ごとだったり、より細かく、繊細にとらえて、同時に調和を求める反応力も発揮できます。

 

バランスは、まず自分自身のバランスからです。体の陰陽のバランス(調和)をとり、さらに心を落ち着かせ、心身のバランスをとります。心がざわつくと、体の緊張となって現れやすく、体のバランスもとれないものなのですよ。

 

ここまでは、気功でもできます。

 

太極拳になると、攻めてくる相手がいる想定ですので、その動きは攻防の連続です。自分の調和だけではなく、相手との調和も入ってきます。

 

現実社会の疑似体験ですよね。

 

生きていれば、誰かと衝突することもありますし、調和が崩れることもあります。そんなときにどうするか、です。

 

衝突し続けたり、多発すると、くたびれます。心もささくれ立ちますし、体も疲労します。居心地も悪いですよね。

 

それを自覚して選ぶなら良いのですが、「そうなりたくないのに、いつもそうなっちゃう」場合、何かが滞っていて調和がとれていないのかもしれません。

 

まずは、いつ、どこでバランスが取れていないのか把握し、そして希望するなら、調和を取り戻すように反応していくこと、です。太極拳は、それを疑似体験していけますし、その繊細な感覚も育てていくことができます。それに長けていけば、「どうしてこうなっちゃうのかしら」とは、なりにくくなるかもしれません。

 

その反応は、力づくではないため、相手にダメージを与えずに、衝突を終わらせることもできるのですよ。これを体で経験するのは、目からうろこみたいな体験になります。

 

安定しているように見える人は、実はとっても動いているのかもしれません。

 

太極拳をする目的は、人それぞれです。解釈や、大切にしているポイントも違うように感じますが、わたしは、この繊細な感覚を育てていくことを、大切にしています。(他を否定しているわけではありません。念のため。)

 

もともとバランスが取れていることを考えると、それは取り戻すとか、思い出すだけとも言えます。だから、誰でも大丈夫。できない人は、いません。

 

いいお知らせでしょ。

 

 

参考:「老子」〈道〉への回帰 神塚淑子著 岩波書店

 

 

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上手くいく、いかないではなく、あるのは経験だけ

2019.11.08 Friday

 

武当山の秋のお稽古から帰ってきたあと、通常クラスでも站椿功を取り入れています。

 

木を抱えるように腕を前にあげる形を、みんないっしょに、10分くらい続けます。

 

やり方とコツはお伝えしますし、途中で直すこともありますが、基本はそれぞれ自分で取り組みます。

 

肩や腕が痛い場合は、どこかに緊張や滞りがあります。バランスもとれていません。

 

緊張があるからバランスが取れていないのか、バランスが取れていないから緊張があるのか、どっちもありえます。

 

それを自分で探っていきます。

 

ひとりですると諦めてしまうことも、みんなでいっしょにすると、持続できることもありたす。みんなの勢いに、お互いに乗りあえるのは、グループレッスンのいいところです。

 

あれこれ探ってもらうとはいっても、どうしてもキツくなることもあります。

 

そんなときは、「腕を下ろして、仕切り直してもいいですよ」と、言っています。ただし「あとで、なぜ腕を下ろしたのか聞かれたときに、答えられるようにしてね」と付け加えます。


自分で意識してもらうためなので、実際には、ほとんど聞きませんが、

 

これは昔、気功の先生に言われた言葉でもあるのです。

 

「呼吸が苦しくなってきた」とか、「腕が痛すぎて」とか、感じたとおりでいいのです。

 

理由を意識することで、同じ出来事が、続けられなかったという失敗ではなく、ひとつの経験として捉えやすくなる気がします。

 

太極拳のお稽古でよく感じるのは、すべては経験でしかないことです。上手くいったとか、いかないとかは、成功と失敗とみることもできますが、経験の価値は、どちらも同じです。

 

上手くいかないから、「何かが違うんだな」と感じることもできますし、

 

上手くいかないことがあるから、上手くいったときに「これだ!」とわかります。

 

上手くいったとき、その感覚をじっくり味わうのも、いいものです。

 

でも、そもそも「これだ!」と思っても、過去との比較での「これだ!」だったり、現時点の自分の感覚、つまり狭い世界の中での「これだ!」であることも、あります。

 

もうちょっと先に進むと、「あれじゃなかった、これだ!」がやってくることもあります。

 

絶対的な”これ”はありませんが、だからこそ、上手くいってもいかなくても、どんなことも価値ある経験になります。

 

自分の体と心で、経験と発見ををしていくことが、お稽古の楽しさでもあります。

 

人生も、同じじゃないかな、と思ったりします。

 

上手くいかなかったときのダメージは、はるかに大きかったり、トラウマになるものもありますよね。

 

それでも、長いスパンで見たときには、その経験があるから、「これじゃない」ことに気づいて、今があると感じることも、多くあります。

 

後からみたら、もっと違う角度から過去の出来事を見ることもできますしね。視野が狭かったのかもしれませんが、そのときは、状況、環境、その他いろんな要素が組み合わさった中で、それが精一杯だったのでしょうから、もう仕方ありません。

 

すべて起きたことを前向きにとらえよう、と言いたいわけではありません。辛いのにもかかわらず、「これも人生勉強なのだ」とす前向きにとらえるのは、傷口がふさがっていないのに、ムチを打つようなことにも、なりかねません。

 

辛いことは辛いと認めるほうがいいですし、直視できないものは、とりあえずは逃げてもいいと思っています。

 

時間は偉大で、いつかは、辛かった出来事でも、穏やかに見ることができるようになることもあります。そのタイミングが自然にくるまでは、逃げていてもいいのではないかしら。

 

站椿功の話に戻ります。10分という時間が長いのか、短いのか、わかりませんが、1時間半とか2時間のお稽古の中で、みんなで取り組むには、今のところ、適当な時間だと思っています。

 

そしてこれが、脚を育て、体を育て、バランス感覚を育て、感じる力と反応する力を育て、心を穏やかにし、パワーを蓄える方法だと思っています。

 

わたしの今の先生(武当玄武派第十六代伝人 明月師父)は、站椿功が好きで、それは「パワーを蓄えることができるから」と話していたことがあります。

 

以前習った気功の先生も、「站椿功をするだけで、すごく健康でいられると思う。それをじっくり研究したい」と話されていたことがあります。

 

やってみると、いろいろでてきます。「無理と思ったけれど、辛くなくて驚いた」とか、「これをやった後のお稽古は、腕が自動で動いてくれる感じがする」という感想もありますし、

 

以前にやったときは続けられなかった人でも、次は最後まで続けられることもあります。

 

人って、どこでどうなるか、わからないのです。これまでの様子は参考になることもありますが、それよりも目の前にいる人を、フレッシュな目で見る方が大切です。そもそも、目の前にいる人の中に、それらの過去の経験も、ぜんぶ入っているわけですしね。

 

「これ、無理」と落ち込んでいた人が、次には「〇〇が痛いのだけれど、どうしたらいいのでしょう」と、前向きに取り組む姿勢を見せてくれることもあります。”取り組む”ことは、本人にしかできませんが、そのためのヒントや解決策は、一緒に探ります。そのためにいるのですしね。

 

もちろん、「ただ痛いだけ」という場合も、あります。「痛い」という経験も、体を壊す危険性がない範囲であれば、大切です。それを感じられるだけ、よく頑張った!ということですよね。

 

ひとりでする場合、10分でも続けるのが難しいこともありますよね。そんなときは、テレビを観ながらでもいいのです。

 

わたしは1回30分するのですが、家の中なら音楽をかけますし、ドラマを観ながらするときもあります。先日までは、ラグビーを観ながらやっていました。

 

武当山でみんなでテレビを観ているとき、先生が站椿功をしていることがあったのですよ。それで「そうか、それもありなのだ」と、勝手に思ったのです。

 

忙しい毎日の中で時間を見つけるのは大変だったり、ひとりでは難しいこともあります。だからこそ柔軟に、”ながら”站椿功でもいいと思います。それでも十分、体は育ちます。

 

「お稽古とは、集中してするものだ」とか、「上手くいくのがよくて、上手くいかないのはダメ」というのは、どちらも”ねばならない”ですよね。無自覚に持っている思い込み、幻想です。

 

お稽古という体験は、そんな幻想に気づかせてくれる時間でもあります。

 

それが、どこかで日常の過ごし方、感じ方、反応などに、反映されていくのではないかしらね。意識しなくても。

 

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「陽だまり」のイメージは、縁側にのんびり座り、暖かいお日様の光が射しこみ、ぬくぬく、まどろむような時間と空間です。縁側は、なくても生活できますが、あると居心地が良く、今、とても失われている”あそび”や”ゆとり”だと思うのです。モノも置かれておらず、いつもキレイで、りん、とした印象もあります。太極拳を通して、陽だまりのような場を創っていきたいと思っています。

 

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空間

2019.11.05 Tuesday

 

(站椿功)

 

空間は、とっても大切です。

 

空っぽの間、英語で言うとスペース。宇宙とも訳せるところが、また素敵なところです。

 

何もないようで、すごくある、という感覚です。

 

ブログのタイトルに入れている「陽だまり」も、そのイメージは、縁側の空間です。お日様が柔かく照らし、モノも置かれずスッキリしていて、空間があることに意味のある場所。座ったり、寝っころがることもできますし、内と外をつなぐ場所でもあります。

 

あそび、ゆとり、という言葉も、ぴったりきます。

 

きちきちに詰まった場所や、スケジュールは、効率はいいかもしれませんが、息もつまります。ちょっと空を見上げたり、深呼吸したり、息抜きをする時間も、必要ですよね。

 

体にも、空間は大切です。

 

太極拳の体の使い方は、(太極拳だけではないと思いますが)、空間を持ち続けることでもあります。

 

まず、自分の体の中の空間を広げます。

 

足裏で大地を踏み、頭が天に向かって伸びると、体がバネのように縦に伸びていきます。背骨やその他の関節の隙間が、開いていきます。

 

硬く縮こまっていた背中も、ゆったりと広がり、呼吸も楽になります。

 

この縦に伸びる力を元にして、空間は、四方八方に広がります。風船がぷんっと膨らむイメージですが、もっとしなやかで強い感じです。自分の内側だけではなく、外にも広がっていきます。

 

冒頭の写真は、站椿功のひとつの形です。このままひたすら、5分、10分、30分、1時間と経ち続けます。腕で木を抱えるように、前に上げ続けるこの形は、力が四方八方に広がっていく感覚を身につけるには、ぴったりです。

 

見た目は、腕が前に上がっているだけですが、前だけでは成り立ちません。陰陽のバランスを考えたら、前に行くものがあるなら、その前に後ろに向かうものが必要です。

 

目立ちませんが、後ろに向かっているのは、命門(めいもん)です。おへその裏側、背中側にあるツボですね。これが、後ろに引っ張られて、後ろに向かう力になります。

 

命門を後ろに引き続けることで、腕が前に上がり、手の甲は、前へ前へと向かいます。肩の関節の隙間は、空いていきます。体と腕の間の空間も、広がっていきます。

 

腕を下ろしてまっすぐ立つタイプの站椿功は、主に縦に伸びる力を養いますが、この腕を前にあげるタイプは、さらに空間を広げて、パワーをつけるという感覚です。

 

血が巡って体が温かくなったり、ぷんっと広がる空間の力を感じます。

 

太極拳は、この空間を保ったまま、動いていきます。

 

よくクラスで試してみる、面白い実験があります。

 

ペアになり、Aさんはこの站椿功の姿勢を取り、中心軸は動かさず、左右に動いてもらいます。Bさんは、回ってくる方の腕を、外から両腕で押します。

 

何も考えずにやってもらうと、押されたAさんは、腕と体の間の空間がつぶれ、力づく、筋力勝負になってしまいます。腕に意識が行ってしまったり、押してくるBさんをどうにかしようと思いすぎると、こうなってしまいがちです。

 

では、空間を保ったまま動くとは、具体的にどうするかというと、後ろに引っぱられている(膨らんでいる)命門を、左右に動かします。腕を右に動かしたいなら、命門を左に動かします。

 

見えていない後ろ(命門)を、ぐるっと動かせば、前(腕)も、ぐるっと動きます。てこの原理を働かせます。すると、自分の体と腕の間の空間がつぶれることなく、押してきた相手も簡単に動かすことができます。

 

もうひとつ、面白いことがあります。押しているBさんの感覚の違いです。

 

Aさんに空間がない場合、Bさんはもっと押したくなったり、意地になってきたりします。逆に、「もうやめたい」と、辛くなってしまう方もいるようです。

 

Aさんに空間がある場合、Bさんは素直に押されていきます。抵抗する気は起きません。押されていくのですが、不思議に嫌な感じもしません。

 

前者は、ふたりとも力を出しあい、意地を張りあい、摩擦・軋轢が生まれています。

後者は、ふたりの間にストレスはありません。

 

太極拳とは和を求めるもので、それは、もともとある和に還るためのものです。

 

争いが起きないことがいちばんですが、何かの具合で緊張が起こり(戦争や争いが起きるとき、緊張が高まる、と言ったりしますよね)、争いが起きてしまったときに、それをストレスなく終わらせるための方法でもあります。

 

よく、相手は変えられない、と言いますよね。その通りだと思いますが、この場合は、相手が自分で気づいて、本来の姿、緊張のない状態に還っていくだけです。

 

そのためには、自分が空間を保ち続けることが大切です。自分のバランスを崩さなければ、相手がバランスを取り戻すきっかけにもなります。

 

こんな経験を体でしておくと、実生活で摩擦が起きたときに、お互いにストレスをかけず、丸く収める方法をとれるようになるのかもしれないな、と思います。

 

それって、ちょっといいと思いませんか?

 

 

【11月の特別クラス】

11月10日(日)14:30-16:30「はじめての形意拳」 詳細とお申込方法はこちら

 

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11月24日(日)14:00-16:30「やさしい站椿功:しあわせを呼ぶ7つのステップ」 詳細とお申込み方法はこちら

 

☀「陽だまり」とは

「陽だまり」のイメージは、縁側にのんびり座り、暖かいお日様の光が射しこみ、ぬくぬく、まどろむような時間と空間です。縁側は、なくても生活できますが、あると居心地が良く、今、とても失われている”あそび”や”ゆとり”だと思うのです。モノも置かれておらず、いつもキレイで、りん、とした印象もあります。太極拳を通して、陽だまりのような場を創っていきたいと思っています。

 

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いしい まゆみ(道号:静慧)/ みんみん)

太極道家

講座のご案内は、こちらからどうぞ。

 

 



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